micro:bitでリズムをきざむ
これは micro:bit Advent Calendar 2017 の 24 日目の記事です。 (YouTube埋め込みたかったのでブログにした)
何をつくるか
ボタンでリズムを作って鳴らすやつを作りたい。 なんて呼ぶのか分からないのだが機能的にはステップシーケンサーに近い?
部品をそろえる
8拍子コントロールするのにスイッチを8つ買うことにした。あとはmicro:bit使ってみることにした。 Amazonやスイッチサイエンスで部品を探してポチる。
micro:bit
- 出版社/メーカー: BBC micro:bit
- メディア: エレクトロニクス
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今回の主役。USB microケーブルでPCと接続し、Webで書いたプログラムを書き込む。
タクトスイッチ
もう一方の主役。ステップのON/OFFを制御するのに使う。好みでok。
その他
- BBC micro:bitエッジコネクタボード
- micro:bitの小さい入出力端子を使えるようにするのに使う。
- ブレッドボード
- 半田づけなしでサクッとプロトタイプするのに使う。
- ブレッドボードジャンパー線
- ブレッドボード上の配線に使う。
- メス・オスジャンパー線
- エッジコネクタボードのピンとブレッドボードを接続するのに使う。
- ワニ口クリップ
- イヤホンとmicro:bitを接続するのに使う。
- イヤホン
- 普通の安いやつでok。micro:bitのスピーカーモジュールを買う手もあるが、エッジコネクタボードと併用する方法がよくわからなかった。
ここに書いたのを買った場合、しめて7000円弱。LED周りはmicro:bitについているものをそのまま使えば買わなくてよい。
さらにマストではないけど配線上の電圧やスイッチの仕様などの確認でテスターが手元にあるとよい。
Sanwa(三和電気計器) デジタルマルチメーター PM-3
- 出版社/メーカー: 三和電気計器
- メディア: Tools & Hardware
- 購入: 5人 クリック: 18回
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使う入力ピンを決める
入出力端子の一覧を見ながら、どのピンにデジタル入力がきたらON/OFFが変わるようにするかを考える。
LEDと共有されていないP5, P1, P8, P16, P2, P13, P14, P15をここでは使うことにした。 イヤホン出力はP0から行う。
配線する
ブレッドボードジャンパー、メス-オスジャンパー、ワニ口クリップを取り回して配線する。各タクトスイッチを押すと電源ラインが入力ピンと導通するだけのシンプルな回路。
エッジコネクタボード上の配線は次のようにする。
- 3.3V(右から3つめのピン、赤いケーブル)をブレッドボードの電源ラインへ。
- P0(左から2つめのピン、左、赤ケーブル)をイヤホンジャックへ。
- GND(右から1/2つめのピン)をイヤホンジャックへ。
- 残りのデジタル入力ピンをタクトスイッチへ。
イヤホンはジャックを買う必要はなく、ワニ口クリップでつなげばP0からの出力で音が出る。
変数をつくる
せっかくなので、ブロックでのプログラミングをやってみる。
まず初期化で、必要な変数をつくる。
- 各ステップのON/OFFをtrue/falseで保持する配列
- 各ステップを表示するLEDの座標(x,y)を保持する配列
ON/OFFの値を変える
foreverループで8拍子分のステップを回す。毎ステップごとに全てのタクトスイッチの入力を読み、入力があれば該当するステップの変数のON/OFFを切り替える。
ON/OFFの値を出力する
まず、該当するステップの変数を見る。 OFFだったら何もしないで20ミリ秒待つ。 ONだったらLEDとイヤホンへ出力して20ミリ秒待ち、LEDを消す。 ここでLEDのどこかを光らせる・消すかを決めるのに、先ほど作っておいた座標配列を使う。次のステップに行く前に適当に(ここでは250ms)待つ。
動かす
画面のシミュレータでも確認した後、プログラムのhexファイルをダウンロードしてFinder上でmicro:bitへドラッグする。
動画にうつっていないのだが音はイヤホンから出ている。
感想
スイッチ入力はトグルスイッチを使えば変数の値の設定が楽になるだろうし、可変抵抗やアナログ入力を使えば、音程、BPMなども調整できるようになるはず。クリスマスソング鳴らすのもいいけど、自分で音をいじってみるのもなかなか楽しい。
参考書籍
これを買えば基本的なことはだいたいわかる。
micro:bitではじめるプログラミング ―親子で学べるプログラミングとエレクトロニクス (Make:PROJECTS)
- 作者: スイッチエデュケーション編集部
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2017/11/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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死、セッション
よくある自己啓発は一貫性が重要だと教えるが、一貫性とは最初から存在するものではなく、「一貫していないようにみえるものをいかに関連づけられるか」というストーリーテリング能力につけた聞こえの良い名であると考えてもよいかもしれない。
むしろ我々の時間は毎日、いや毎時ごとに予告なき終止符を打たれているのが本来の姿で、連続しているようにみえる方が歪なのかもしれない。
我々は肉体の死について死を想えmemento moriと叫ぶ。が、これは死というより終焉について想えと捉えるほうが有用だ。
死は様々なスパンで遍在する。人間が死ぬだけでなく、国家や通貨も死ぬときがある。それに伴い一つの経済が死ぬ。深センのように立ち上がり一気に羽を伸ばす都市がある一方で、移民の腰掛けに使われる都市もあれば寿命に達する地方都市もある。会社の寿命は今や人間の寿命より短いと言われる。技術やコミュニティは作られては消え、次のものに命をつなぐ。それによって社会や市場の新陳代謝が促される。メディアを賑わす燃料は何度も投下されては消化される。
一年の計を立てたその一年は藻屑と化したことに気付く。夏の間に何かやろうと思っていても夏はすぐに去ってしまい、その何かは一年待ちになる。我々のサービスを支えるサーバーも時には死ぬ。電力も突然落ち、街が暗くなることもある。
一日というスパンの中でさえ集中力や記憶力が保てる時間は限られる。東京の多くのカフェWiFiは一時的な利用を前提にしている。こういう最小の時間からプラクティスしていくのがよいだろう。これを仮にセッションと呼んでおく。
我々は一日にセッションの死を何度も迎える。不断に継続するセッションというものは存在しない。
サーバーが死んでもシステムが死なないようにするために我々はサーバーの死をシステムに組み込む。
セッションの死の接近を感じるたび、筆者は脳内のものをSlackに吐き出す。ときにはブラウザを閉じる。セッションを圧縮し保存して死後の次のセッションに備える。
死の波状の襲撃への耐性をつける最善の方法は、それをプロアクティブに発動させておくことだ。変化を日常的にすることで変化への恐怖を排除する。定期的にワクチンを打ったり住処を変えるという、仮想の死をシミュレートする人間の知恵と同じことを、より短いスパンでやるだけだ。
ミクロな死がよりよいマクロな生を支える。それは細胞と個体、個体と種の関係にとどまらず一人の人間の精神においても真であるように思う。
近況:暗号通貨
暗号通貨に関していろいろ観察するうちに、「これから来てほしい未来にベットする(賭ける)」ということについて改めて考える。これまで「予測不能な未来へアクセスする」チャネルは例えば出版であり、起業であり、より敷居の低い手段として投票、投資信託、クラウドファンディングなどがあったわけだが、今ここにICOという選択肢が見えている。ただICOを含む暗号通貨の動きが他と違うのは、「世界観にベットする」というアクションに加えて、中心化された法定通貨への依存からの脱却という問題が根深く横たわる点だ。
暗号通貨の仕組みは単一ではないので、それぞれの世界観に応じて経済圏が急速に形成され(法定通貨の尺度でいえば時価総額ということになる)、しかし互いの連動は避けられずにいる。日本円資産を形成することがいったん日本国と運命を一つにすることを意味するように、自分のポートフォリオを作るということは自分の生きるべき経済圏を探し、それを主体的に選ぶということを意味している。それが暗号通貨であれば、自分の「世界観」の色彩を表現するという意味合いがさらに強くなる。
FXの延長で暗号通貨に加わるうちは相場が上がってつい喜んでしまうが、あくまで「法定通貨ベースで利益をいかに出すか」という評価軸の軛から逃れていないわけだ。確かにアドレナリンは出るだろうが「世界観」とは無縁の行動にとどまる。例えばスイスフランが体現する世界観とかいうものはあまり説得力がない。「新興国マーケット」への投資は相変わらず可能だろうが、国家ベースのそういったセグメンテーションはいつまでも有効なものだろうか。
暗号通貨の価値が上がるということは法定通貨の信用が相対的に下がっているということで、それに気づいている人から徐々に自分が生きるべき経済圏に重心を移している、あるいは法定通貨以外の評価軸形成し、あるいは評価の空間を転倒しつつある。デイトレーダーのことはさておけば、暗号通貨やブロックチェーンが人々を魅了するのは、これが単なる技術革新にとどまらず、ベーシックインカムとしての収益にもとどまらず、我々は次に法定通貨という共同幻想(暴力装置?)を果たしてディスラプトできるのか、一人の有限の人間として時間を悔いなく使えるのか、選択や主体性とは何か、ポートフォリオや税や経済の諸概念は今後意味をもつか、というあらゆるポエムに容易に接続してしまうことだ。
未来のことはわかるはずがないが、これが今起こっていることをありうる未来からみるとこういうことかなというざっくりとした理解。
近況
なかなか日本語を書けておらず深く考える時間もとれていないのだが、何やってるの?と聞かれることも多いので最近の脳内のスナップショットをとっておく。
多くの人間が特定の組織に対して決まりきった形でコミットするという労働像は、緩やかに崩壊しつつあるという感覚がある。 個人や緩やかなチームの活動が社会において占める比重は無視できなくなり、予想もできない協働の形が実現していくだろう。
転機 - Schreibe mit Blut
昔こういう記事を書いてサラリーマンをやめたのだが、巡り巡って今そういう働き方を検証している感じになっているので、無意識というのは侮れない。
まず仕事としては何をしているかというとフリーランスで複数社のWeb開発を手伝っている。メインはRails,PythonでときどきReact+Redux,Vue+Vuexをやる。あくまで背伸びというよりはできること、できそうなことをやっている。特にスタートアップだとやることの多さの割に体制が不安定だったりでタスク配分がスムーズでないことも多いので、待ち時間をムダにしないようにしたら主体的に入っていけるようになるとよりよいと思う。
ブロックチェーン周りはバブルの様相も確かにあるとは思うが、可能性を感じている。手を動かす時間を少しずつとり始めたが、次々に出てくるプロダクトにまだまだ理解が追いついていない。引き続き手を動かしたり詳しい人に会って理解を深めていきたい。
機械学習は目前の優先度が下がっていて情報収集できていない。できたほうがいいのはわかっているが、まあいいかなという諦めも多少ある。
拠点は一応東京になっている。夏にベルリンを中心にドイツ近隣を回ってだいぶ印象がよかったのでまた行きたい(いくなら昼の長い夏がよいと思う)。ブロックチェーン周りの関心からエストニアも行きたい。先日勢いで行った深センもよかった。いずれ動きにくくなる時期は来るので、動けるときに動ける体を維持したい。
1人の能力をリソースを会社が(それがレガシー企業だろうがベンチャーだろうが)独占している状態はもっと面白くできると思っている。同じような働き方をしている人ともっと現状共有したり組織化できればいいのだが実際できておらず物足りなさはある。シェアハウスやコワーキングスペース、イベントはその手軽なチャネルだと思う。
どうやら企業側も同じ考えのようで、「フルタイムじゃないと困る」という依頼は昔より減ったような実感がある。これを後押しするサイボウズの副業推進とかサンカクとかは面白い取り組みだと思う。
よく言われるように割り込みに対する作業開始のオーバーヘッドは思っているより大きい。これに処するには
- 割り込みを減らす
- 割り込みあたりのオーバーヘッドを減らす
- オーバーヘッドを許容する
の3つある。
どうしてもハッカーは1に偏りがちで、集中して何かに取り組むのは重要だが、少々効率化によりすぎで、結果的に雇用関係の硬直化を招くような気がする。
2はまだプロセス・テクノロジーの改善の余地があり、3もオーバーヘッドを上回る機会をつかめればいいだけだ。
色々な現象をリンクさせる必要がある時代に視野が狭まるのを避けたければ、
割り込みや撹乱や忘却がある前提で一日の時間利用を設計し、1と2と3のアウフヘーベンを目指していくのがよいのではないか。
相変わらずクラブミュージックが好きなので、聞く以外の楽しみ方を探している。そういう意味でもベルリンの文化に触れたことやドイツと日本の音楽との距離感の違いなどはよい刺激になっている。あと旅先で写真をとる時間を楽しむようになったし、昔旅行に行ってた割には写真撮らなかったのもったいないと思う。ものを作るということと表現するということを区別し自分はエンジニアだから〜しない、とか自分はエンジニアではないから〜できない、と自己規定することにどんどん意味がなくなっているような気がする。
そろそろ次世代のことを考える時間が増えてきたからかもしれないが、昔よりサステナビリティへの興味は上がった。宗教上の理由でからウナギやマグロを積極的に食べなくなった。マイクロプラスチック問題のフィールドワークに少し関わったりも始めた。
サステナビリティの関係でfuture of foodも興味があるのだが、何を信頼していいのかわからないので今のところは静観。フードや健康に関しては日本にもドイツにもアメリカにも様々なカルトがあることがわかってきた。このカルト性というのが危険だったりどうやら逆に重要だったりするのだが。これまで模範的な食事とされてきたものもただの惰性である可能性もある。少なくとも確かなのは栄養学に関して知識がなさすぎることくらい。自分はほとんど味の違いが分からず、味覚記憶も弱く、そもそも何かを食べて不味いからこれをもっと美味くしようというモチベーションが低い。今あるものを少し変えて美味しくすることもいいが、食の多様性を増やしていくことのほうが面白いし、もっといえば何を食べるかより誰と食べるか、何に思いを馳せて食べるかの方が重要だと思う。
フリーランスになる前の懸念は「できる仕事があるのか」ということだったが、今は健康だったらまあなんとかなるなということで「何かの拍子に仕事できなくなっても生活を支えられるのか」ということに変わりつつある。といってもフリーランスが会社員よりリスクが高いかというともちろんpros-consあると思う。とにかく頭を使い続けないといけないが、体力は必然的に落ちていくだろう。ということで走ったりしていて、10kmはなんとか飽きずに走れるようになった。
とはいえ、体だけが健康であればいいやという考えだけで済む時代は終わった。自己肯定感という考えに自分自身あまり注意を払わずに生きてきたが、人間の幸せを構成する最大の要素ではないかというのが最近腑に落ちるようになってきた。とくにこれから育つ世代の自己肯定感を大きく損なうようなことはしたくない。
働き方だけでなく住み方や家族形態の多様性についても何らかの形でコミットしたい。時々シェアハウスやAirbnbに住んだりしているのはそれを失わないようにするためでもある。人間には最終的には落ち着く所が必要だという人もあるが今のところ懐疑的で、それは人生の最低限必要な時期だけでいい(自分は精神的な拠り所は5箇所ほどあるしもっと増やしてもいい)。どういう部屋に住むかよりはどういう人とどういう時間を交換できるかのほうが遥かに重要だ。悔いなく死ぬために。
みたいなことが脳内でゆるやかにつながっている。
深セン(深圳)第一感
東京のギークハウスコミュニティで、Maker Faire Shenzhenに行く機運が高まっていた。深センは行ったことはなく、確かに深センのMaker Faireは面白そうなので行ってみた。
会場は大学のキャンパスで、デジタルハリウッド大学で開催されていた2009年頃のMake: Tokyo Meetingを何となく思い出す。
当初の目的のMaker Faireもまあ面白かったのだが、寧ろそれに合わせて大量のハードウェア好きが集まって騒ぎ、企業訪問などのイベントが目白押しとなる数日間だった。ほとんどの時間は日本人と行動したが、現地や海外からのMaker達との交流ももちろんある。マレーシアから来たという学生は、マレーシアではメーカームーブメントはまだ始まったばかりなので深センをモデルにしたいという。屋台街で飲んでいる日本人集団にはSexyCyborg氏がいつの間にか乱入してきていた。
情報を集めている中で、ニコ技深圳観察会の存在を知り、ほぼ企画に乗っからせていただいた。
ドローンが飛び謎の端末やQRコードが氾濫する深センのリアルな風景だけでなく、負けじと深セン・東京・シンガポールのようなアジア各地を飛び回るエンジニアの一群に圧倒されて懐かしむのは、2009年春に初めてシリコンバレーに行った頃のことだ。当時はJTPAという団体がサンノゼでカンファレンスを主催し、それに合わせてやはり100人規模の日本人が集まるという祭りが毎年あった。その頃には参加者も結構慣れてきており、主催のJTPAというより参加者が個別のツアーを勝手に組んであちこち動き回る流れが既に大きくなっていた。
このスタイルのよい点は、祭り感もあるが、人によって参加している体験が少しずつ違うので、コミュニティ全体としては多様な見方での現地感が得られることではないかと思う。今のところはかなり属人的である(高須さん、茂田さん、伊藤さんたちをはじめとする水先案内人の方々に連日お世話になった)深センツアーというシーンも、現地慣れした人がどんどん増えてシリコンバレーなみに馴染みのエリアになることで発展的解消していくようなこともあるかもしれない。
訪問したところ
Maker Faireの公式ツアーの申し込みは間に合わなかったのだが、JENESIS(日本人創業の受注生産会社)、x.factory(コワーキングスペース)、HAX(カナダ発のアクセラレータ)などのOpen Day、観察会の拠点があるSeg Maker+でのミニカンファレンスに参加できた。
それが終わってからの、少人数で工場やハードウェアスタートアップを訪問した一日はさらに怒涛だった。この日は朝からタクシーをかなり苦戦しながら捕まえて(ライドシェアのDidiも使えたがタクシーの方が早かった)、基盤製造を受注している工場のラインを見学した。
次に訪問したUFACTORY社のロボットアームuArmは、手動で教えた動作を記憶して反復することができる。
このロボットアームはモジュールの交換によりレーザーカッティングや3Dプリンティングなど多くの機能をもたせることができ、またユーザーが自由に楽しみ方を発掘するカルチャーが醸成されているようだ。丁寧で若い創業者たちも根はギークで、自分たち自身が面白いから会社を立ち上げたと話すのが印象深い。
最後に訪れた水中ドローンGladiusのChasing Innovation社はみんな工場に出払っていて多忙にもかかわらず、来客とわかると一行を熱心に応対してくれた。
やがてリテールやサンプル提供に関するコミュニケーションがその場で始まり、訪問側の商魂も負けないという白熱を感じた。
現地に行く前に
深センやシンガポールや東京のメーカームーブメントにおいて何が起こっているのか、また各キーパーソンのストーリーを情報量として一気に知るために読んだ本は、まず高須さんの本だ。
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
- 作者: 高須正和
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2016/03/28
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さらに、訪問させていただいたJENESIS社の藤岡さんは、15年以上の深センでのビジネス経験が詰まった恐るべき濃度の書籍を先日出版された。
「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム (NextPublishing)
- 作者: 藤岡淳一
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2017/11/24
- メディア: Kindle版
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これらを読みながら興味が出てきたら、深センもしくは香港への航空券を抑えるとよい。
参加者間のコミュニケーションは実質WeChat一択となるので日本にいるうちに慣れておくとよい。VPNやShadowsocksを用意していけばSlackやFacebookにつながる*1のは確かだが、現地でバタバタしながら都度それらが動いているかどうかを確認するのは意外に大変で、実際いつどこで遮断されても文句が言えなさそうだ。WeChatだとほぼ常につながるし、いざはぐれたときにチャット内で自分の場所をストリーミングで共有できる機能がありこれはもっと早く知っておきたかった。
WeChatPayは日本でも徐々に決済で使えるようになっているが、現地ではお世話になりっぱなしだ。使ったことがない場合は誰かに少額送金してもらってアクティベートしてから現地に渡るのが基本となっている。サービスそのものは体感したほうが早いので割愛するが、注文、請求、送金から広告配信まで日常の決済行動がほぼなんでもWeChatの中に収まっている。それ以外の機能で面白いのは、例えばお金をランダムにWeChatグループ内でばらまくRedPacket(紅包)で、飲み代を集めて余ったお金をリターンするときなどに使える。こういうサービスを日常的に使っているとお金に対する距離感も変わってきそうだ。
WeChatPayと同じくらい便利さを実感したのがシェアサイクルだ。地下鉄がどんどん通っているとはいえ、訪問先が駅から1km以上離れているということは珍しくない。東京のシェアサイクルと違うのはだいたい街のどこにでも止めてあって、駐輪場を探すというよりはそのへんの自転車(Mobikeの場合はオレンジ)を探す。自転車を見つけたらQRコードをスキャンしてさっと解錠して乗る。施錠するとスマホに利用料の通知が来る。
多少不慣れを感じるとすれば、自転車の質にだいぶばらつきがある。また、工事が頻繁に行われており路面が常に舗装されているとは限らないので要注意だ。観光を楽しくというよりはあくまで移動の補助として割り切って使う感じだ。黄色いofoの使い方は確認できなかったのだが、mobikeは早めにアカウントを作って駆使すれば圧倒的なフットワークが手に入る。
ところでmobikeのような現地サービスのアカウントを作るにはSMSを受信できるSIMがあるほうが何かと都合がよい。日本で準備する、香港で準備する、深センで調達する(自分が該当)の大きく三通りがあるようだが、日本語情報がたくさん出ているのでこれも割愛。
通常の滞在ではいらないが、銀行口座を作るとなるとまた大変で平均的にみんな苦労している。これは別途書く(書いた)。同様にひとまずの訪問では英語や身振り手振りでなんとかなるが、中国語ができると楽しいのは異国訪問の常だし、やはり現地人の信用も得やすいという。自分は過去にとった中検4級の知識を掘り起こしながら楽しんでいた。
次はどうするか
帰国から1週間以上経ってしまったが、きれいにまとめるのは諦め、個別の出来事や実際の訪問で役に立ちそうなことも改めて書こうと考えている。今回のインプットをまだ個人的に処理しきれていないというのもあるが、さらに深センに関しては数ヶ月前の情報が役に立つかは現地に行ってみないとわからず、処理しきれないと言っている場合ではないようなスピード感がある。いつまで鮮度があるかわからない情報をクイックに出すというのが重要になるはずだ(とくにそれが仕事になる人の場合)。
見るべきものが一度で全て見られたわけではなく、次の訪問で知りたいこともある。H8マイコンやArduino、Raspberry Piを使ってロボットやセンサーシステムを昔開発していたのだが、ずっとハードウェア界隈をウォッチしていたわけではなく、新しいハードウェアのコンテキストを改めて吸収していきたいという気持ちになる。ウェブやブロックチェーンのテクノロジーはよく見えなかった(ICOはbanされているし、ウェブはそもそも検閲されている)。最近はミュージックテックに興味があり、訪問先でも大体クラブシーンを観察しているのだがその時間もなかった。またゆっくり話す機会がなかった人もいる。
いろんな人に「深センどうだった?」ときかれるが、次に行くときはそういう人たちと行ければ楽しい。自分一人だと「なんかすごい」という感想しか出ないので限度があり、一緒に行く人それぞれに、自分なりの課題と情報整理をしてもらうほうが絶対によい。自分の周りで行ったほうがいいんじゃないかという人はこんなイメージだ。
- 既にハードウェア開発にかかわっており日本の製造スタイルとの違いを知りたい人
- 小ロットのハードウェア開発で躓いている人
- ビジネスアイデアがありハードウェア開発で解決できる可能性がある人
- 決済業界の人
- 技術関連の投資やファイナンスに関わっている人。そういえばこれを書いている間にこのニュースがあった。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-11-21/OZRZVD6TTDS101
- 新しい時代の知財について思索している人
- 今世紀の技術、都市、社会がどう変わっていくのかを定点観測したい人
- 無難にWebエンジニアをやっているがややマンネリ化しており、新たな技術的刺激を欲している人
深センは東京から6時間,4万円ほどあればいけるので当然シリコンバレーよりも行きやすい。週末の空き時間を見つけては年に何度も訪れる日本人がいるのは頷けるどころか、それくらいしなければこの流動する都市についていけないという切迫感もある。さらにいろんな国を見ればわかるように外国人・移民政策は時代の子で、ゲートはいつまでも空いているとは限らない。深センに行くだけなら明日にでもどうぞというところだが、効率的にいろいろな人と知り合えるという意味では次のニコ技観察会のタイミングにあわせていくのがベストではないかと思う。
ここまでお互いに煽り合って興味が出てくると、やはり深センに移住すべきだろうかという問いが浮かぶ。実際、深センに魅力を感じた人の多くが半分以上軸足を深センに移すことを考えるのではないかと思う。しかし一方、深セン以外にもまだエストニアのような興味深いテックセンターがあり、仮に深センに関わるとしても人によって様々な関わり方があるだろう。自分は特定の一拠点に全賭けするライフスタイルに今それほど惹かれていないので、これまで訪れたトロント、サンフランシスコ、ベルリン、深センのようなドットを自分なりに徐々に繋いでいくだけでも今のところ面白いのではないかと思っている。どうやっていくかはノーアイデアだ。
オフライン
現代においてWiFiのある作業空間というのはあまりにありふれ、WebエンジニアとしてはWiFiが欠乏した環境で作業をすることは想定することすら難しい。自分がやっている作業のうち、WiFiがない時間の開発は実際には何が困るのか、障壁を軽減するにはどうすればよいかという思考実験をしてみる。
コミュニケーション
Slack, Facebook, メール, LINE,Skypeなど。
同期コミュニケーションの場合
連絡先がわかるのであれば電話する。
非同期コミュニケーションの場合
お互いに待ちが多いのが問題の場合は、待ち時間が少なくなるように資料やテスト、実装の叩き台をなるべく早く共有しておく(Work-In-Progress)。コミュニケーションがとれない時間が長くても齟齬が少なくなるように要件定義の精度を上げる。
タスク管理
オフラインでも使えるタスクリストをつくる(Asanaのモバイルアプリなど)。
メモの保存、書き物
Evernoteを使う。自分の場合はメモにSlackも使うのだが、SlackのMacアプリはオフラインだと機能しないのでモバイルでやる必要がある。ただしオンラインになったときに再送信する必要がある。Kobitoは画像はオフラインで保存できないが、他の場所にあるのであれば実質困ることはあまりないと思う。
過去の資料・メモの閲覧
Evernoteの場合、事前にダウンロードしておく。
作業時間の記録
Togglはオフラインでも一応動く。最悪カレンダーアプリに記録してあとでTogglに移す。
地図の閲覧
慣れていない場所の場合は事前によく調べておく。もしくは紙の地図を入手する(実際にアメリカで運転していてよく知らない場所に迷い込んだとき、ホテルのフロントで地図をもらってなんとか脱出したことがある)。
速報・ニュースの閲覧
リアルタイムで情報を受ける必要性を減らす。ニュースへの依存度を減らす。ニュースの取捨選択をする。
プログラミング
これが滞ると本業が成立しない。
クラウドでの動作に依存している場合
Dockerなどでローカル開発環境を整える。
ドキュメント閲覧が必要な場合
ドキュメントをダウンロードしておく。ライブラリ内のテストを読む。
グーグル検索
こればかりはどうしようもない。検索せずに悶々と過ごす。
音楽ストリーム
音楽を聞くのは集中のためなので、ホワイトノイズと耳栓などで代用する。集中効果の高い音源はダウンロードしておく。
分裂
社会がその構成員に求める美徳は集中、一貫、誠実、といったものであることが多い。
他方、我々は、限られた同じ時間を使ってあらゆる刺激に反応することが可能であり、自らの内に恐るべき分裂を経験することがある。分裂は現代人の宿痾であるとしてこれを認め、どう向き合うかを各人が考えることも必要であろう。
- 作者: 平野啓一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/12/17
- メディア: Kindle版
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揮発性のランダムな刺激やマインドポップからくる閃きは夢にも似る。夢は記録しなければ霧消する。言語化もままならぬ覚醒時の思考をすくい取ってなんとか構造や物語を見出す方法論も枚挙に暇がない。
暴走する内省を永続化することは、古の賢人であってもときに難しかったらしい。
これがトマス・アクィナスの有名な「読解不能な文字(littera illegibilis)です。異常なまでの思考のスピードに、手の動きが必死で付いて行こうとした痕跡です。 pic.twitter.com/sCRzN8MPGX
— 山本芳久 (@201yos1) 2017年2月16日
加えて、我々に与えられる情報のバラエティは非常なものであり、もとより分裂している。一日のうち特定の刺激のために寸断された時間はどんどん短くなる。
人、そして人を含めたシステムは集中の時期と分裂の時期を交互に揺り戻されるものだ。まとまった時間がとれることを前提とするだけでなく、数秒の動画のようにマイクロな刺激の連続を乗りこなし、スイッチングのオーバーヘッドを減らす鍛錬もまた、頑強な人生を送る術として必要とされている。
脳にマルチタスキングの過負荷をかけ続けるのは、頻繁に指摘される通り危険な試みではある。どれくらいの分裂したポートフォリオが自分にとって最適なのかを常にチューニングするための工学もおそらく発展途上であろう。
分裂が人を壊すのと同様、集中も確率的に人を壊す。我々は依存先を不自然に限定することでもまた、壊れたり立ち直れなくなったりする生物である。冒頭にも書いたように、唯一の選択肢への献身がある種の美徳であるからだ。身体の健康へ抱くほどの関心や警戒を、我々は精神の健康に対してまだ抱いていない。ふとしたきっかけで、あるいは遅かれ早かれ、我々は壊れる。ときに、誰ともまともに話せないほどに。
自分は間違いなく、精神が壊れかけているときに助けてくれる人に恵まれているほうだろう。後付けで振り返れば、落ち着いていたときの自分自身の振る舞いに救われているという側面も大いにある。セーフティネットのある社会設計そのものも重要であるが、集中による最悪のケースを認識して自分の周りに予防線をはりながらリスクに身を晒す生き方も、もう少し社会に位置を占めてよい。