"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

CHAOTIC MODE

混沌のうちにレスコン予選が終わった。結果はチャレンジ枠で本選進出。といえば聞こえはいいが、当日の模様は散々だった。機体がゲートから出られずにメンバーが必死で原因を探る様子などは、まるで去年の悪夢の再現だった。終わってからみんな意気消沈だったので、夢のようだ。

いや、これは素敵な悪夢の続きなのかもしれない。

直前の1週間はネズミもゴキブリも出る部室で毎日深夜まで調整が続き、みんな満身創痍だった。1日の半分以上を製作と調整に費やし、帰宅したら寝るだけ、講義は限界まで休講、完全に昼夜が逆転し、この状態が予選後も続けばもう潰れてしまうに違いないと思われた。それでも、予選で動かなければ本選はないし、予選を通過できるなら本選でも充分なパフォーマンスができるだろうから本選までの調整はそれほどきつくないだろうと踏んでいた。まず試験の嵐が襲ってくるし、余った時間はバイトを入れる予定だった。

しかし、事態はそれほど甘くなかった。予選でうまく動いていないにも関わらず、運よく本選に出場できることになったのだから。これは何が何でも本選で動かせという神の啓示に相違ない。

予選で動かなかった直接の原因は足回りのアルミのギアが潰れてしまったことと、モーターのコネクタが引っ張って抜けてしまったことだ。今までには一度も発生しなかったミスであり調整の足りなかったのが悔やまれるところだが、しかし遠因は自分の作った回路の不備にもある。マスター側で8個のセンサと8個のスイッチと12個の電池、スレーブ側で6個のセンサと15個のモータと30個の電池、そしてラジコンによる無線通信を全て正しく管理しなければならず、断線・電圧不足・機械緩衝を防ぐため不断の注意力が要求される。幸いソフトの負担は自分にはないのだけれど、それでもかなりのオーバーワークだと思いつつ、システムはもはや他人の手に負えないところまで複雑化してしまっている。

僕らは確実性の求められるレスキューにおいて敢えて人型マスタースレーブという難題に挑戦している。シンプルで戦略的な機体に比べて当然ながらリスキーであるその夢は、システムの故障率を充分に下げるためにそれだけ多くのバグを徹底的に殺すことを要求する。ひとたびミスを犯すたび、レスコンチームに求められる'基礎体力'がないのかなぁ、と感じてしまう。これはもはや僕のメンタルの問題なのだ。

本当なら本選に出場できるような完成度ではなかった。しかしなんだかんだいっても、ここまできたらもう選択肢はない。

とりあえず、暫くできなかった生活スケジューリングの時間をとりたい。今後3ヶ月の予定はかなり固くなっているから、色々考えておかないと。