"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

宗教所感

以下極論してみたけど大したことは書いてない。

What?

世界の大抵のイベントはある意味宗教戦争として一元的に片付けられるのではないか。人間が何かを無批判に強く信じるという行為を広く宗教だと認めてしまえば、 世界の大半は宗教でできていることになる。自分は無宗教だという人も、何かを強く信じながら生きている。人は宗教から逃れることはできない。

科学

「科学は宗教とは違う」と反発する人もいるが、科学は最も成功した宗教の一つでしかない。「AならばB」「BならばC」という前提をもとに「AならばCだ」と結論づけるのが哲学や数学に代表される論理。それに対して、「AならばB」「現実はB」という前提から「じゃあ真実はAだ!」とやるのが科学を支える合理性。帰納推論なのでA,A',A'',...といくらでも真実の可能性がでてきて互いにつぶしあうという反証のドラマに科学の面白さがあるが、いってみれば内紛にほかならない。数学の論理性はあくまでこの科学の合理性を補強するために利用されるにすぎない。科学は論理性よりも合理性に立脚したパラダイムであり、この「数学論理こそ最も合理的な説明手段」という信念、客観的真実と科学万能論への絶対的な信頼は広義の宗教以外の何者でもない。似非科学を「非科学的」と批判するのは、イスラム教徒に対して「非カトリック的」と声を荒げるようなものでメタ的な意味を持たない。そこには「科学的」な意味しかない。それでいいというのなら、愚民を救うべく似非科学を糾弾しているのなら、あなたは既に使命感あふれる布教者だ。

資本主義・市場経済・ビジネス

長い歴史を経て打ち立てられた貨幣の信用、これほど多くの人間が心の底から信じられる概念は他に思いつかない。100円玉はエイプリルフールが何日続いたとしても100円の価値しかもてず、そこに内紛の発生のしようはない。冷戦とかイデオロギーとかいったって、内輪で勝手に喧嘩しているのは、だいたい経済学者やジャーナリストである。

政治

有能な政治家にはもちろん強い信念がなければならない。国民を富ませ、外患を防ぎ、過去を追悼し、百年国家の礎を築く。これらの偉業は自分を騙しては成し遂げられない。政教分離をうたう民主主義も、自らを宗教と切り離して考えるという点では科学と同じ穴の狢だ。

ブランドと芸術

誰が見てもゴミにしか見えないものでも、数十億の人類のロングテールのどこかに必ずその価値を認める層がいる。その層のさらにどこかに芸術を広める力があるという確率がかかると、たまーに革命が起こる。ブランドも同じように、消費者の判断力をそぎ購買欲をそそる有無を言わせぬ力がある。これを宗教と呼ばずして何を宗教と呼ぼう。

学歴と年功序列

リスクよりも安定を求めて成功をおさめた国家にとって、貨幣の信用と同じくらい無批判に「裏切らない」とされるもの、それが旧世紀型の宗教価値である学歴至上主義だ。この名乗らぬ宗教の催眠からふと目が覚めると、ぞっとする。自分は静かな戦争の真っ只中にあるということに、気づいたときにはもう遅いかもしれない。

知識

知識、教養、教育、雑学、技能、技術、常識…我々の脳にインストールされるアドオンはいろんな人のいろんな立場で分類されるが、いつの時代どこにいっても敬意を払う価値対象になりうる。それは学校で学ぶ知識に限らず、伝統的作法から他愛ない会話力、柔軟な処世術や胡散臭い心理学まであらゆるジャンルに及ぶ。マネーそのものへの妄信に対する疑念は、マネーの随時生産を可能にする知識に最大の資産価値を認める層を生む。ポスト知識には知識の随時生産を可能にする知識術が待っており、歴史はただ繰り返す。

(ライフ)ハッカーとボランティア

ハッカーも何かを狂ったように信じている。ハッカーとはサイバー犯罪者のことでは無論なく、この淀んだ世界を自分にもちうる技術で少しずつでもよくできるならやってみよう、という強烈な(自己満足を含む)ボランティア精神の集合が、オープンソースの潮流を生んでいるというのは耳にタコができるほど聞かされる話だ。そこに従来の企業の経済活動と同じ論理を持ち込むことは既に困難になっている。もちろんハッカー世界にも時々言語戦争やエディタ戦争といった内紛が起こるが、人類の進歩のことを思えば微笑ましい夫婦喧嘩とみてやるほうが幸せになれる。

So What?

大事なのは、何か成し遂げたいなら、何でもいいからまず何かの信念を身にまとう必要があるということ。幸い、狭義の宗教とは違ってここにあげた宗教は排他分類ではなくラベルなので、服のように合わせて着ることができる。宗教を選ぶのは株や保険を選ぶのとはわけが違うかもしれないが、効率的な宗教に最も効率的に帰依できる一部の人が最終的には名を残すのだ、と思っている。帰依に失敗したり、下手にかっこつけようとしてニヒルに走った奴は、願おうが願うまいが、世界史の藻屑と消える。ヒトラーは宗教を間違えた。

麻薬でも、飲み込んでしまえ。それが自分の宗教観。