"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

旧友

高校の仲間で未だに年に何回か飲むのだが、そのうちの一人に食事に誘われた。高3で同じクラスになり席が近くなるまでは全く話したことがなかったのだが、ずぼらな担任が席替えを行わなかったおかげで高校最後の一年間は毎日付き合うことになった。

今もそうだが、彼は相当とんがった奴だった。

当時の自分は今よりもまだ空気という奴が怖くて、授業中は不必要に目立たないように我慢して空気の読解を怠らず、放課後に少し発散するという毎日だった。母校の空気は割と寛容で変人を量産できる地盤があった(男子校ということもあったのかもしれない)しそこが好きだったのだが、いじめが全くないわけでもなかった。

そういうくだらない同調生活が嫌いで、早く大学生になってとんがった奴と普通に話せるような場を得たかった。いかにもフリーダムを謳歌していそうな大学生が昼前に自転車で颯爽と駆け抜けるのを窓から眺めて憧れたりするのがどちらかというと半分以上だったのだが、まぁとにかく来る日も来る日もそういう無駄な緊張感の中で過ごしていた。

毎朝遅刻ぎりぎりまで寝ている彼を家の中まで叩き起こしに行くほど仲良くなったのはいいのだけど、二人で話している間は狭苦しい教室では若干浮いていて、笑ってしまうくらい誰も近寄ってこなかった。

とんがっている本人は一向にお構いなしだった。こっちにも昔からとんがった奴を見ると無責任に応援してしまう性格があって、最後にはまぁいいやという感じで色んなことを語らいあうのだった。

その彼がいま日本のある産業を憂い、起業も考えているそうだ。状況は悪化の一途をたどっているので、そのときになるまでもつか不安でしかたないと云う。なんで今すぐ起業しないの?と聞いたら、学問に区切りをつけずに起業というリスクはまだとりたくないらしい。堅実だ。

少し偏狭で皮肉っぽい性格をカバーするだけのトークセンスがあり、博学でかつ何に対しても自分で考えてしっかりした意見を持ち、そして時おり爆発的な集中力と行動力を見せる。そんなこいつもついに起業とか言い出したか。

これはやばい。

もし本気でやるのなら、応援させてもらいたい。