読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる
"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

スペイン

ある人とスペインの話をしていて正月のスペイン旅行を思い出した。

直行便はないようでアムステルダム経由でバルセロナへ降りた。
日本からホテルに着くまでほぼ24時間の移動、バルセロナからさらに長距離のバス移動。
グラナダで静かに新年を迎え(一部の現地人は大人も子供も大はしゃぎのお祭り騒ぎだったが)、故郷で初詣をしない初めての年越しになった。
白い家が印象的な小さな村ミハス、セビリアの大聖堂、コルドバのメスキータを見てマドリッドへ移動し、最後にトレドを訪れるという標準的な旅程。

写真は一部をFacebookに上げたので割愛し、スペインへ行く前に読んだ本を何冊か。

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

西暦711年、ウマイヤ朝イスラムの将軍ターリックがイベリア半島に上陸する。
古都トレドに拠点をおく西ゴート王国の末期、党派争いに腐敗した国から逃げ出し野垂れ死ぬ民衆を見かねた現地総督の手引きのもとだ。
ターリックが侵入したヨーロッパへの入り口はジャバル・アル・ターリック、後にジブラルタルと呼ばれるようになる。
イスラムイベリア半島を実質制圧するかに見えたとき、遠くダマスクスのカリフから帰還の命令が下る。
最後まで抵抗を続けたキリスト教徒の豪族ペラヨはスペイン北部に王国を建てる。
現在では王家の相続人の称号にも継承されているアストゥリアスの地は、8世紀にわたるレコンキスタ、国土回復戦争の精神的基盤となる。

スペインの歴史と題しつつ、本書のほとんどは副題に従っており、グラナダ陥落によってレコンキスタが完了する15世紀末からハプスブルク朝の終焉までの2世紀が占めている。
さらにレパントの海戦セルバンテスの人生にそれぞれ一章ずつを割く偏愛ぶりで、現代はほぼすっ飛ばされている。
もっとも著者はそのように自身の興味だけをムラのある形で通すことを明言している。

ターリックが帰還する前にペラヨが降伏していたら、スペインのカトリック勢力は復活せず、ヨーロッパの宗教地図どころかアメリカ大陸の歴史も大きく変わっていたかもしれない。
そんなifを喚起しながら流麗な日本語で紡がれる物語は十分に面白く、シリーズの他巻も手にとってみたくなる。


ガウディの伝言 (光文社新書)

ガウディの伝言 (光文社新書)

上述の内容では足りない現代のスペインを三冊で補うことになったが、全て芸術についての書になってしまった。
旅程ではガウディの建築であるグエル公園サグラダファミリアを訪れた。
著者は若くしてサグラダファミリアの建設現場に飛び込みんで彫刻に携わり、ついには改宗にまで至った日本人だ。
設計の秘密は有機的なカテナリーの柱だけではない。
帰国してから柱の天地を観察するといったことはできないので事前勉強をするにこしたことはない。
だが個人的に後悔した点を述べておくならば、宗教的な感慨は誰かの書いたもので教わるよりも、現地までとっておくべきである(ツアーの女性客の方々にはやはり感激ものであったようだ)。


ゲルニカ  ピカソが描いた不安と予感 (光文社新書)

ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感 (光文社新書)

旅程ではバルセロナピカソ美術館を訪れたほかマドリッドで『ゲルニカ』を見た。
本書のテーマはピカソではなく『ゲルニカ』(および『泣く女』)である。
ゲルニカ』はピカソがその制作過程を公開した珍しい作品であり、習作ごとに様々なイコンが現れて消える。
ゲルニカ』は西洋絵画の伝統をどのような形で引き継ごうとしたか、波乱の「私」を送ったピカソがどのような形で「公」の『ゲルニカ』にそれを差し込もうとしたか、ここから『泣く女』をどのように派生させるのか、町を壊滅に追いやった力をも象徴しうる牛のイコンをどうするのか、などといった天才の葛藤を観察している。

美術史的位置づけの記述のほうは終盤に入るにつれやはりだんだんよくわからなくなってくる部分があった。


ダリ―シュルレアリスムを超えて (「知の再発見」双書)

ダリ―シュルレアリスムを超えて (「知の再発見」双書)

ダリが『グランド・マスターベーター』を描くまでの人格形成に至る少年期を過ごしたカダケスは
フランスとの国境の近くの小さな町でもちろん旅程には入っていない。
美術館では作品を見ることもなく(確認はしていないが、見られるはずの作品が運悪く特別展で出払っていたそうだ)、ダリの絵を断片的に用いた子供用塗り絵本だけが土産コーナーに置いてあった。
サグラダファミリアを擁する一大カトリック国ではひょっとしたら扱いにくい存在かもしれない。
ダリ少年が自分を解放して完全な恍惚にふけったというカダケスの大自然との一体感を一度は堪能してみたいものだ。