"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

ロボットと実存

先述の情報フルーエンシー関連で、ロボカップの草分けの一人である産業技術総合研究所の野田五十樹氏にインタビューする機会が昼休みにあった。つくばとのテレビ対談でいろいろ聞けたことはあったけど、個人的に面白かったのはレギュレーション周りの話。氏はシミュレーションリーグが専門だが、以下は主に実機リーグの話だ。

なぜ人間のサッカーにおいてハンドは反則なのか。それは、人間が手を使うことに関して非常に器用な生き物だからだ。それを使えばよりよいパフォーマンスができる両手の動きをレギュレーションによって敢えて封じることでサッカーというスポーツの面白さが成立するわけだが、ではサッカーロボットにとってハンドとはそもそも何か。ロボットリーグでハンドの反則を設置する意味はない。何故ならもともと「サッカーをするために」作られるロボットには手が足より器用である理由がないからだ。サルトル的にいえばロボットに関してはどうしても本質が実存に先立ってしまうわけで、ロボットがどれだけ進化しようとも、この点においては人間と異なることを回避しえない。このどうしようもない人間とロボットの事情の違いの故に、運営者としてはハンドに相当する反則が何かということを考えてやる必要がある。例えばボールを吸盤で吸い付けるのはナシとか、両足で挟み込むのはナシとか、人型リーグで四足はナシとか、ロボットが人工物であるが故のルールというのも暫定的には必要不可欠なのであって、この辺りのレギュレーションはロボットの進化に伴い迅速な対応を見せるだろう。

ちなみにロボカップの目標「2050年までにロボットで人間に勝てるチームを作る」についての氏の見解は「充分可能」ということだった。話す機会はなかったけど、かりに技術的に可能だとしても素材とか重量とか力加減とかそういうのもレギュレーションできっちり対応しとかないと、危なくて試合にならないだろうなぁ。何せ相手はロボットだし。

あと、氏の個人的な長期目標として「ロボカップを通じてロボットと人間の相互理解をはかる」というのがあったけど、これも面白いと思う。