"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

ニート・パニック!

関係者ならよくご存知の通り、NF(November Festival,京大の学祭)のテーマは10月時点で『超意欲的ニート』だった。それが11月に入って少し経った頃、NFシーズン到来を告げる看板が『満喫モラトリアム。』に変わっていることに皆気づき始めた。なんでもかんでも句点をつけたがる昨今の風潮は置いといて、どうやら某所から物言いがついたらしい。こんなテーマが選ばれる(テーマは毎年学生団体であるNF事務局が公募して決める)ところも、一回決まったテーマが変わるほどの圧力がかかるところも京大らしいっちゃ京大らしい。

ニートについて復習するためWikipedia先生に聞いてみよう。

・語源
1999年にイギリスの内閣府社会的排除防止局(Social Exclusion Unit)が作成した調査報告書BRIDGING THE GAP: NEW OPPORTUNITIES FOR 16-18 YEAR OLDS NOT IN EDUCATION, EMPLOYMENT OR TRAININGに由来する言葉であり、ブレア政権で用いられた政策スローガンの一つ。そのため英国におけるニートの定義は、当該報告書に準じた「16〜18歳の教育機関に所属せず、雇用されておらず、職業訓練に参加していない者」とされている。但し、ニートという語は英国を始めとする諸外国では殆ど使用されておらず、類似した分類も普及していない。むしろ近年、欧米では「ニート」について「日本における若年無業者問題を指す語」として認知されつつある。
・経緯
この言葉は厚生労働省が2004年に発表した労働白書の中で、「労働者・失業者・主婦・学生」のいずれにも該当しない「その他」の人口から、「15〜34歳」までの若年者のみを抽出した人口(若年無業者)が、同年出版された玄田有史の著書において「NEET=ニート」と言い換えられ、以後、マスメディア等を通じて一般にも知られるようになった新語である。
・現状
非常に誤用の多い言葉である。そもそもニートとは「○○をしていない」という「状態」を現しているにすぎない言葉であったが、その語義はマスメディアによって歪曲化され、現在では「○○をする意欲が無い」という意味で使われることが一般的となっている。

もとは英国生まれのきちんとした英語だったけど、日本に輸入されてから意味が変わったってことですね。意外なのは国内でも微妙に異なる公式の定義があること。

・非労働力人口のうち、年齢15歳〜34歳、通学・家事もしていない者(厚生労働省)
・高校や大学などの学校及び予備校・専修学校などに通学しておらず、配偶者のいない独身者であり、ふだん収入を伴う仕事をしていない15歳以上34歳以下の個人(内閣府)

結婚してればニートじゃないんですね。それほど単純でもないこの事情をちゃんと把握している人がどれくらいいるんだろうか。

ちょっと勉強したところで、先のNFテーマに関して。ちゃんとした話を聞いたわけではないですが、メディアや周りの話から察するに大体こんな感じで意見が分かれてたんじゃなかろうか。

  • NEET
    • ニートは意欲がないという差別を助長すんな
    • NFという半ば公的な場でニートという語を一人歩きさせんな
  • EET(15-34歳だけどNEETじゃない人を仮にこう呼ぶことにする)派
    • NFなんだから面白ければいい
    • テーマごときで騒ぐな。そんなこと気にすんのはニートだけ
  • わけがわからん派
    • そもそも本当のニートはNFなんかに来ない。このテーマは矛盾を抱えている
    • 京大生がニートとは何事か!喝!

文字通りモラトリアムを満喫している大半の京大生にとってはどうでもいい笑い話にすぎないのですが、これはニート問題に対する意識の差(無関心も含めて)が如実に現れる微妙な話でもあります。人類の歴史上色んな差別問題に対する戦いがあったことは誰でも知っています。奴隷、黒人、女性、精神病患者など色んな「クラス」に属する人が差別から解放された、あるいはされようとしているわけですが、その延長に「引きこもり」や「ニート」は並ぶのでしょうか。ニートの次は「オタク」や「怠け者」や「不器用」が差別用語に認定されるかもしれないし、その先に「専門馬鹿」「ダサい」「空気読めない奴」が来たとしても、相対主義的な観点からはその是非を問うことはできません。今はまだ馬鹿馬鹿しい議論に思えるかもしれませんが、奴隷差別や黒人差別を廃止しようとする運動がその黎明において「何言ってんだお前ら」的な視線を浴びていたことも紛れもない事実ですから。「差別を探す試み」がなくならないのは、差別がなくならない問題と根は一つです。

ただ一つ思うのは、このテーマを考えた人は「何を隠そう俺はニートだし、無駄かもしれないけど、ちょっと頑張ってみるぜ」って感じで自嘲半分、希望半分だったのかもしれないってこと。それが用語一つで騒動を起こし却下されるに至ってしまったのは、なんだかなぁ。。。自嘲ならいいんじゃないのって気もします。例えば「Noといえない日本人」「口下手な東北堅気(小沢さん)」みたいな表現を本人がしたときに、「これは侮辱だ!」って噛み付くかっていうと、どうでしょう。まぁ、人によりますね。2006年度のテーマが「溢れる才能の無駄遣い」であったことを考えると、大して趣旨は変わっていないような気もする。まぁ新しいテーマもそれなりに無難なところを行っているのでよしとしよう、というのがこのゴタゴタの後の大半の人の感想でしょう。

ちなみに僕は恋愛ニートです。誰か恋愛ニートも解放してくれ!