人類の長い午後―ミレニアム・クロニクル 未来史の冒険「西暦3000年の世界」
人類の長い午後―ミレニアム・クロニクル未来史の冒険「西暦3000年の世界」
- 作者: 橋元淳一郎
- 出版社/メーカー: 現代書林
- 発売日: 1999/11
- メディア: 単行本
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素直に面白いのでいつか紹介したかった本。ネットであまりレビューを見ないが、個人的にはもっと色んな人に読んでほしい。著者は『時間はどこで生まれるのか』(未読)や『橋元式』物理参考書で有名なSF作家の橋元淳一郎氏(彼も京大出身…)。本格SFとはちょっと違って自分のようなSF読まない人にも軽く読めるのでおすすめ。
200ページ強でネタバレといわれるほどのものでもないのであらすじを軽く。
22世紀の終わりまでに進化し続ける技術が科学の果てしない巨大化・細分化を導く。科学の最後の切り札であるナノテクノロジーの爆発によって市場経済や国家といった社会の基本原理が衰退に向かう*1。23世紀、管理の限界にあった科学の合い間を縫って巨大隕石によるカタストロフが文明を崩壊させ、暴走したナノテクノロジーが生んだニュータイプの結晶生命がそれまでDNAの戦場に過ぎなかったガイアを脅かす*2。25世紀、カプセルに引きこもって絶滅を免れた人類は、科学の過ちを踏まえ、21世紀のバイオテクノロジーをもってしてもなせなかった脳の解明に着手する*3。26世紀、人類は脳内で革命を進行させ、「神話・呪術」「哲学・宗教」「科学」に続く第4のパラダイム《超知性原理》を確立。それは科学が扱えなかった「主観」「倫理」「統合」という3つの弱点を克服するものであり、27世紀には主観文化の形成、人類・ニュータイプ・人工知性の共存という結実を見る。《超知性原理》が新たな多様性を提示する28世紀からは読んでのお楽しみ。
細かく見ていくとどこも突っ込みたくなってキリがないけど、21世紀初頭のウェブ時代をゆく人類が最も違和感を感じるのは次のくだりではなかろうか。
20世紀末の通信革命とでもいうべき状況の中にあっては、輸送機関を発達させるより、通信ネットワークを構築する方が、はるかに進歩的だと思いがちだが、現在、我々を駆り立てている通信革命の原動力は、「科学」であることを忘れてはいけない。インターネットなどで世界中の人々と瞬時にコミュニケーションが図れることは、たしかに素晴らしいに違いない。しかし、よく考えてみれば、なぜに我々はそれほど大量の情報を求めなければならないのだろう?自分の街の人々と会話するよりも、世界の裏側の人々とコミュニケーションを図る方が、知的刺激ははるかに大きいと断言できるのか?ソクラテスは、死ぬまで一度もアテネの街から出たことがなかったではないか。
(中略)
28世紀人の価値観は、過去の人類の歴史のどの時代とも違うが、20−21世紀社会よりは、古代ギリシァの哲学者たちの価値観の方に近いように思われる。彼らは、世界中に通信ネットワークを張り巡らせてまで、見えない相手とのテレパシー交換*4を行おうとはしないだろう。近隣の人々に満足せず、取り憑かれたように、受話器にあるいはディスプレイ上に会話の相手を求めている姿は、紀元前の世界から見ても、28世紀から見ても、異常としかいいようがない。
SFと思えば突っ込んじゃいけないのはわかってるんだけど、ねぇ。笑
参考までに目次を。
- セックス革命(2001〜2100)
- 分離する「セックスと出産」
- 遺伝子だけでは解けない生命の謎
- ヒトゲノム計画のゆくえ
- ダイエットから性転換まで自由自在に
- 遺伝子の親・子宮の親
- 生殖としてのセックスの消滅
- 「科学」はいまだ君臨する
- ペットは恐竜(2101〜2200)
- "ナノテクノロジー"の開花
- 22世紀の街の風景
- 変貌をつづけるバイオテクノロジー
- ドレクスラーの夢
- 生命は「分子マシン」
- 分子世界の植木職人
- 「汎用性分子マシン・システム」登場の衝撃
- 22世紀のゆくえ
- カタストロフ(2201〜2300)
- 地球を襲う「ディープ・インパクト」
- 衰退する《知の指導原理》
- 巨大化によって限界に達する科学
- 細分化によって硬直化する科学
- 爆発する「負の遺産」
- 地球を覆う青紫色の結晶生命(2301〜2400)
- 海上ミクロポリスにみる希望(2401〜2500)
- 伝説と化すカタストロフ
- 「海上ミクロポリス」の風景
- もはや、引き返せない歴史
- 文明の破滅をもたらしたもの
- ついに、脳の改造に着手する人類
- 脳の進化史を振り返る
- 科学を超える《超知性原理》(2501〜2600)
- ある「空想譚」
- 「賢人」会議
- 「倫理的知能」のモジュール群
- 喜怒哀楽を伝えるテレパシーを駆使する人類
- 科学の三つの弱点
- 《超知性原理》
- 《超数学》
- 「静かなる革命」
- 人工知能「ゲームの天才」(2601〜2700)
- 不老不死の時代(2701〜2800)
- 天空の架け橋(2801〜2900)
- ネアンデルタールの亡霊(2901〜3000)
- レオナルド・ダ・ヴィンチの末裔たち
- 不幸な政治家たち
- エピキュリアンたちが目指す「モネラ世界」
- ネアンデルタール人の復活