"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

Startup Weekend Tokyo 深圳に参加した

Maker Faireで見た深センという街に、より踏み込んでみたいと思っていたところ、Starup Weekendの案内が流れてきたので参加してみた。

予算

HKExpressの2万円の羽田-香港便を使った。HKExpressはセールをよくやっていて更に安くなることもある。多少長旅になるが、深セン直行便よりはるかに安く、香港で人と会ったり支度を整えたりついでにできることが増える。イベントチケットは3泊分の宿泊・朝食を含めて4万円(アーリーバードは2万円)。

イベントのスポンサーで、今回の審査員でもあり、深センでのビジネス経験に基づく濃密な指南書を著されたJenesis社の藤岡氏。

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スケジュール

1日目 4/27(金)

イベントは会場のSegMakerでの懇親会から始まる。

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チームを組んでアイスブレイクのグループワークをやった後、20本ほどのピッチがあり、関わりたいアイデアに一人3票で投票したりして8本に絞る。チームを組んでWeChatグループを作り、通訳とメンターの方の予定をアサインする。それが済んだあたりでいい時間なので、老街駅近くのホテルにみんなでチェックイン。

2日目 4/28(土)

ホテルで朝食をとった後会場へ。各チームほぼそれぞれの時間を過ごすことになる。筆者の参加したチームはプロトタイピングはなく、土曜の日中に2箇所のヒアリングを取り付け、残りの時間はプランを練ることになった。

 

ランチは会場のすぐ近くの華強北路で弁当を買って食べた。


3日目 4/29(日)

引き続き発表に向けて活動する。最終ピッチには参加者以外のオーディエンスも来る。審査の後、締めくくりのパーティーを経て閉幕。

移動

往路は香港の上環にいたのでAirport Expressで香港空港へ向かい、他の参加者、運営の方と合流。香港空港の入国の手前では深センマカオと連絡するフェリーが出るが、一度入国してしまうとこの手は使えないとのことで、バスでLuohu(羅湖)までいって入国を通過。所用時間は1時間ほど。バス乗り場などが頻繁に変わるらしく、慣れないとやや難易度が高そうだ。

 

ちなみに、香港市内の交通と買い物に使えるPASMOのようなものが八達通(Octopass)だが、深セン側の羅湖駅などで深セン通と八達通が相乗りする互通行が買える。これにチャージしておくと深センと香港の両方で移動に使え、香港ではそのへんの露店で買い物ができる。

帰路は余裕があったので羅湖から電車で香港市内へ入ってみたが、迂回していることもあり、かなり時間がかかった。また香港の電車網は接続がまだそれほどよくないので、帰りの便に余裕がないときは避けたほうがよさそうだ。

イベント期間は労働節(メーデー)と重なり、連休なので人が大量に移動する。ゴールデンウィークの日本の満員電車や帰省ラッシュもなかなかだが、この時期の深セン・香港イミグレーションもまた迫力を感じる移動だ。

経験したもの

足で情報を稼ぐ楽しみ

金曜はピッチの選抜とチーム作りで普通は終わり、動けるのは土日になる。Startup Weekendには稼働中のプロジェクトを持ち込んではいけないという原則があり、すぐ見せられるプロトタイプがあるわけでもないので、入れる場所や会える人も限られる。

筆者たちは土曜に会場の上にいるスタートアップと南山区のインキュベーターの二箇所に飛び込んでヒアリングをすることができた。よく受けつけてくれたなとも思うが、現地でのコミュニケーションに精通したメンターや中国語通訳の方がいて初めて成立したものだ。

南山区へ向かうタクシーをつかまえたところ。

ディスカッションの発散と収束、直前の追い込み

土曜の猛烈な一日を経ての深夜のどん詰まり感はどのチームでもあったようだ。特にアドホックにチームを作るようなビジネスコンテストでは一般的なことかもしれない。筆者たちも例に漏れず、日曜の朝になってもやることが絞りきれていない状態だったが、残り時間を見ながら決めることにした。

日曜はやはりアポがとりづらかったが、議論と資料作り、発表のリハーサルに時間を割きなんとか形にすることはできた。綿密な事業計画とはいかなかったものの、前日の混迷ぶりからの追い上げはアドレナリンが出るビジネスコンテストの醍醐味だと思える。

一方他のチームを見ると、ピッチ投票では当選したのに意見がまとまらずに崩壊したチームもあり、逆にチームを作るだけの票を得られなかったのに復活して入賞したアイデアもあるというのがチームワークの不思議だ。

メタな視点

今回ピッチをしなかった筆者には、メーカー側のプロジェクトに回る選択肢とプラットフォーム側のプロジェクトに回る選択肢があった。

実際、会場のSegMakerのビルにはイベントスペースやコワーキングスペースだけでなく、巨大な電子部品市場があり、エレベータで少し降りて買い物をして上がって来ればプロトタイピングができるという寸法になっている。ヒアリングをしたSegMakerのスタートアップはそういう環境の中で暮らしているということだ。

実際のプロダクトを作るメーカーではなく、深センでモノづくりをする人を支えるプラットフォームを作るというアイデアに参加してみたのだが、深センに興味がある自分たちが、どうやって深センに興味をもってもらうか、あるいは深センの人に日本に興味をもってもらうかを考えることになり、自分自身が深センにいるモチベーションをメタ認知する機会でもあった。

プラットフォームとメーカー

プロダクトレスなプランを練る中で感じたのは、当然といえば当然だが、プラットフォームはどうしても抽象論になりがちで、メーカーに敬意を払う深センの文化の中では話のきっかけをつかむのが難しいという印象だった。例えるならシリコンバレーでソフトウェアエンジニアであることとそうでないことの絶対的な差に似ているかもしれない。

既に巨大なプレーヤーがあり資金も動いている深センで、週末のスタートアップチームが、甚大なリソースサポートを、メーカーに対して提供できると主張するのは実績がないと難しく、それよりもまずプロトタイプを見せろという話になる。だから我々は日本の特定の市場とのコネクションを謳おうとしたが、それでもやはり先例の調査不足であったことは否めない。

一方、コンサルティングは一般的にはビジネスとして手堅いという評価もあった。自分が参加しなかったメーカー側チームにはメーカーなりの苦労があるはずだから改めて話を聞きたい。

その他に得たもの

インフラの確認

前回訪問から時間が経っているので、インフラ周りで支障がないか空き時間に検証しようと思っていたが、一通りできた。

  • 平安銀行の口座: 残高がないと凍結されるという情報があったが、少なくともATM入金は問題なく動いた。
  • WeChatPay: 引き続き問題なく使えた。銀行口座との間の送金はまだできていない。
  • Alipay: これは今回初めて開設したのだが、問題なく使えた。
  • 八達通・互通行: 先述。PASMOに慣れた身としては、タッチ式の互通行は携帯を出してインターネット越しに使うWeChatPayより早くて便利だと思わなくはない。
  • mobike: 何故か使うのに中国人身分証が必要になってしまった。
  • ofo: こちらは前回使わなかったのだが、逆に使えるようになっていた。
  • ExpressVPN: 香港サーバーの一つは使えず、残りも不安定ではあったが一応使えた。
  • China Mobile SIM: 前回深センで買ったSIMにtop upするとそのまま使えた。
  • China Mobile Hong Kong SIM: 香港用電話番号。1枚目は香港空港のキオスクで買ったのだが、Alipayのアクティベートに使おうとしたところで誰かのTaobaoアカウントで使われていることがわかり、深水埗電気街の店舗で2枚目を買った。
  • AirSIM: 深水埗の露店で買ったトラベラーSIM。中国本土用のデータパッケージを追加で買ったところ入国してから使えるようになった。

イベント中の誰かの言葉で印象的だったのは「中国のネット環境を言い訳にしない」ということで、それは状況が変わってもその場にあるあらゆるworkaroundを使うような頭と体を培うということだ、とも解釈できる。時間に追われているのに全員ネットを満足に使えないような状況では、例えばMacユーザーとはAirDropで、WindowsユーザーとはUSBメモリで情報を共有し、最終的にはGoogleでなくBaiduと中国語を武器としていくというようなことも含まれるだろう。

今後も状況が変わっていく中で、また外国人という立場上、期待した全ての手段が問題なくワークし続けるのを期待するのは恐らく難しく、ワークしたりしなかったりする複数のバックアップ手段を用意しておくことのほうがトータルでは効果的なのかもしれない。

香港散策

香港で滞在した上環には交通の便がFabCafe MTRLやNaked Hubといったコワーキングスペースやカラフルにリノベーションされた建物が並び、歩いていても気分がよいし、集中して作業もしやすい。サンフランシスコで知り合った友人と待ち合わせ、世界一安いと言われるミシュランで飲茶して深水埗まで歩くなどの楽しみもあった。

クラブ探索

マカオ、香港、深センで合計4箇所のクラブを見てみたが、若い人が圧倒的に多いというのもありEDMの割合がかなり多く、他の国の都市とのクラブ文化の違いを垣間見たように思う。広いフロアでテクノやハウスを聞ける場所はそのうち1箇所だけだった。

行動をともにした人たちとの絆

参加メンバーは右も左も分からない環境で互いに臨機応変に助け合い、頼れる中国語通訳や現地コミュニティの方とも親密になれた。また、転職やフリーランスを考えている人たちと、働き方(実際ホテルや移動の空き時間で仕事はしていた)について語り合うことができたのはよかった。これは日本でもできないことではないが、わざわざ深センに来るような人どうし旅先で語ることはやはりそれぞれの中で芽吹くのではないかと思う。

会場近くのカフェにて。
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