"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

深セン(深圳)第一感

東京のギークハウスコミュニティで、Maker Faire Shenzhenに行く機運が高まっていた。深センは行ったことはなく、確かに深センMaker Faireは面白そうなので行ってみた。

会場は大学のキャンパスで、デジタルハリウッド大学で開催されていた2009年頃のMake: Tokyo Meetingを何となく思い出す。

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当初の目的のMaker Faireもまあ面白かったのだが、寧ろそれに合わせて大量のハードウェア好きが集まって騒ぎ、企業訪問などのイベントが目白押しとなる数日間だった。ほとんどの時間は日本人と行動したが、現地や海外からのMaker達との交流ももちろんある。マレーシアから来たという学生は、マレーシアではメーカームーブメントはまだ始まったばかりなので深センをモデルにしたいという。屋台街で飲んでいる日本人集団にはSexyCyborg氏がいつの間にか乱入してきていた。

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情報を集めている中で、ニコ技深圳観察会の存在を知り、ほぼ企画に乗っからせていただいた。

ドローンが飛び謎の端末やQRコードが氾濫する深センのリアルな風景だけでなく、負けじと深セン・東京・シンガポールのようなアジア各地を飛び回るエンジニアの一群に圧倒されて懐かしむのは、2009年春に初めてシリコンバレーに行った頃のことだ。当時はJTPAという団体がサンノゼでカンファレンスを主催し、それに合わせてやはり100人規模の日本人が集まるという祭りが毎年あった。その頃には参加者も結構慣れてきており、主催のJTPAというより参加者が個別のツアーを勝手に組んであちこち動き回る流れが既に大きくなっていた。

このスタイルのよい点は、祭り感もあるが、人によって参加している体験が少しずつ違うので、コミュニティ全体としては多様な見方での現地感が得られることではないかと思う。今のところはかなり属人的である(高須さん、茂田さん、伊藤さんたちをはじめとする水先案内人の方々に連日お世話になった)深センツアーというシーンも、現地慣れした人がどんどん増えてシリコンバレーなみに馴染みのエリアになることで発展的解消していくようなこともあるかもしれない。

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訪問したところ

Maker Faireの公式ツアーの申し込みは間に合わなかったのだが、JENESIS(日本人創業の受注生産会社)、x.factory(コワーキングスペース)、HAX(カナダ発のアクセラレータ)などのOpen Day、観察会の拠点があるSeg Maker+でのミニカンファレンスに参加できた。

それが終わってからの、少人数で工場やハードウェアスタートアップを訪問した一日はさらに怒涛だった。この日は朝からタクシーをかなり苦戦しながら捕まえて(ライドシェアのDidiも使えたがタクシーの方が早かった)、基盤製造を受注している工場のラインを見学した。

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次に訪問したUFACTORY社のロボットアームuArmは、手動で教えた動作を記憶して反復することができる。

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このロボットアームはモジュールの交換によりレーザーカッティングや3Dプリンティングなど多くの機能をもたせることができ、またユーザーが自由に楽しみ方を発掘するカルチャーが醸成されているようだ。丁寧で若い創業者たちも根はギークで、自分たち自身が面白いから会社を立ち上げたと話すのが印象深い。

最後に訪れた水中ドローンGladiusのChasing Innovation社はみんな工場に出払っていて多忙にもかかわらず、来客とわかると一行を熱心に応対してくれた。

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やがてリテールやサンプル提供に関するコミュニケーションがその場で始まり、訪問側の商魂も負けないという白熱を感じた。

現地に行く前に

深センシンガポールや東京のメーカームーブメントにおいて何が起こっているのか、また各キーパーソンのストーリーを情報量として一気に知るために読んだ本は、まず高須さんの本だ。

さらに、訪問させていただいたJENESIS社の藤岡さんは、15年以上の深センでのビジネス経験が詰まった恐るべき濃度の書籍を先日出版された。

これらを読みながら興味が出てきたら、深センもしくは香港への航空券を抑えるとよい。

参加者間のコミュニケーションは実質WeChat一択となるので日本にいるうちに慣れておくとよい。VPNやShadowsocksを用意していけばSlackやFacebookにつながる*1のは確かだが、現地でバタバタしながら都度それらが動いているかどうかを確認するのは意外に大変で、実際いつどこで遮断されても文句が言えなさそうだ。WeChatだとほぼ常につながるし、いざはぐれたときにチャット内で自分の場所をストリーミングで共有できる機能がありこれはもっと早く知っておきたかった。

WeChatPayは日本でも徐々に決済で使えるようになっているが、現地ではお世話になりっぱなしだ。使ったことがない場合は誰かに少額送金してもらってアクティベートしてから現地に渡るのが基本となっている。サービスそのものは体感したほうが早いので割愛するが、注文、請求、送金から広告配信まで日常の決済行動がほぼなんでもWeChatの中に収まっている。それ以外の機能で面白いのは、例えばお金をランダムにWeChatグループ内でばらまくRedPacket(紅包)で、飲み代を集めて余ったお金をリターンするときなどに使える。こういうサービスを日常的に使っているとお金に対する距離感も変わってきそうだ。

WeChatPayと同じくらい便利さを実感したのがシェアサイクルだ。地下鉄がどんどん通っているとはいえ、訪問先が駅から1km以上離れているということは珍しくない。東京のシェアサイクルと違うのはだいたい街のどこにでも止めてあって、駐輪場を探すというよりはそのへんの自転車(Mobikeの場合はオレンジ)を探す。自転車を見つけたらQRコードをスキャンしてさっと解錠して乗る。施錠するとスマホに利用料の通知が来る。

多少不慣れを感じるとすれば、自転車の質にだいぶばらつきがある。また、工事が頻繁に行われており路面が常に舗装されているとは限らないので要注意だ。観光を楽しくというよりはあくまで移動の補助として割り切って使う感じだ。黄色いofoの使い方は確認できなかったのだが、mobikeは早めにアカウントを作って駆使すれば圧倒的なフットワークが手に入る。

ところでmobikeのような現地サービスのアカウントを作るにはSMSを受信できるSIMがあるほうが何かと都合がよい。日本で準備する、香港で準備する、深センで調達する(自分が該当)の大きく三通りがあるようだが、日本語情報がたくさん出ているのでこれも割愛。

通常の滞在ではいらないが、銀行口座を作るとなるとまた大変で平均的にみんな苦労している。これは別途書く(書いた)。同様にひとまずの訪問では英語や身振り手振りでなんとかなるが、中国語ができると楽しいのは異国訪問の常だし、やはり現地人の信用も得やすいという。自分は過去にとった中検4級の知識を掘り起こしながら楽しんでいた。

次はどうするか

帰国から1週間以上経ってしまったが、きれいにまとめるのは諦め、個別の出来事や実際の訪問で役に立ちそうなことも改めて書こうと考えている。今回のインプットをまだ個人的に処理しきれていないというのもあるが、さらに深センに関しては数ヶ月前の情報が役に立つかは現地に行ってみないとわからず、処理しきれないと言っている場合ではないようなスピード感がある。いつまで鮮度があるかわからない情報をクイックに出すというのが重要になるはずだ(とくにそれが仕事になる人の場合)。

見るべきものが一度で全て見られたわけではなく、次の訪問で知りたいこともある。H8マイコンArduinoRaspberry Piを使ってロボットやセンサーシステムを昔開発していたのだが、ずっとハードウェア界隈をウォッチしていたわけではなく、新しいハードウェアのコンテキストを改めて吸収していきたいという気持ちになる。ウェブやブロックチェーンのテクノロジーはよく見えなかった(ICOはbanされているし、ウェブはそもそも検閲されている)。最近はミュージックテックに興味があり、訪問先でも大体クラブシーンを観察しているのだがその時間もなかった。またゆっくり話す機会がなかった人もいる。

いろんな人に「深センどうだった?」ときかれるが、次に行くときはそういう人たちと行ければ楽しい。自分一人だと「なんかすごい」という感想しか出ないので限度があり、一緒に行く人それぞれに、自分なりの課題と情報整理をしてもらうほうが絶対によい。自分の周りで行ったほうがいいんじゃないかという人はこんなイメージだ。

  • 既にハードウェア開発にかかわっており日本の製造スタイルとの違いを知りたい人
  • 小ロットのハードウェア開発で躓いている人
  • ビジネスアイデアがありハードウェア開発で解決できる可能性がある人
  • 決済業界の人
  • 技術関連の投資やファイナンスに関わっている人。そういえばこれを書いている間にこのニュースがあった。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-11-21/OZRZVD6TTDS101
  • 新しい時代の知財について思索している人
  • 今世紀の技術、都市、社会がどう変わっていくのかを定点観測したい人
  • 無難にWebエンジニアをやっているがややマンネリ化しており、新たな技術的刺激を欲している人

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深センは東京から6時間,4万円ほどあればいけるので当然シリコンバレーよりも行きやすい。週末の空き時間を見つけては年に何度も訪れる日本人がいるのは頷けるどころか、それくらいしなければこの流動する都市についていけないという切迫感もある。さらにいろんな国を見ればわかるように外国人・移民政策は時代の子で、ゲートはいつまでも空いているとは限らない。深センに行くだけなら明日にでもどうぞというところだが、効率的にいろいろな人と知り合えるという意味では次のニコ技観察会のタイミングにあわせていくのがベストではないかと思う。

ここまでお互いに煽り合って興味が出てくると、やはり深センに移住すべきだろうかという問いが浮かぶ。実際、深センに魅力を感じた人の多くが半分以上軸足を深センに移すことを考えるのではないかと思う。しかし一方、深セン以外にもまだエストニアのような興味深いテックセンターがあり、仮に深センに関わるとしても人によって様々な関わり方があるだろう。自分は特定の一拠点に全賭けするライフスタイルに今それほど惹かれていないので、これまで訪れたトロント、サンフランシスコ、ベルリン、深センのようなドットを自分なりに徐々に繋いでいくだけでも今のところ面白いのではないかと思っている。どうやっていくかはノーアイデアだ。