『宇宙をプログラムする宇宙』
横にしないと読めない挑戦的なカバーだが、中身もなかなか大胆だ。
宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?
- 作者: セス・ロイド,水谷淳
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/11/10
- メディア: 単行本
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いきなり第3章でキーを叩くサルを引き合いに「計算する宇宙」の妖しい影をちらつかせ、第6章まで量子情報論の復習に戻るが、エントロピーやデコヒーレンスの説明がなかなか丁寧。
第7章は宇宙の計算能力について。
まぁそんなとこかなという再確認。これをもとにすると
- 宇宙に存在するエネルギー:10^71J
- 宇宙のメモリ空間のサイズ:10^92ビット
- 時間の3/4乗に比例して拡大
- 古典コンピュータは10^21ビット
- 宇宙がこれまでに実行してきた演算:10^122回
本当に読み応えがあるのは第8章。宇宙が複雑化することを説明するために複雑性の尺度を導入。
- アルゴリズム情報量
- プログラムの長さ
- 完全にランダムな数字列なら、アルゴリズム情報量はその数に等しい
- 規則性や構造をもつ数(πなど)になるとアルゴリズム情報量が少ない
- 言語間の翻訳可能性により、言語の違いによるアルゴリズム情報量への寄与は変わらない
- サルにランダムタイピングさせたとき、アルゴリズム情報量が少ない数ほど生成される確率(アルゴリズム確率)が高い
- これだけでは情報の複雑性の記述には不十分
- 計算複雑性
- 計算に必要な論理演算回数
- 空間計算量
- 計算に必要なメモリサイズ
- これだけでも情報の複雑性の記述には不十分
- 論理深度
- ある数を生成する最短のプログラムの計算複雑性
- 情報量と論理リソース(時間労力)の兼ね合い
物理系におけるこのアナロジーが
- 熱力学的深度
- ある物理系を生成する量子プログラムが必要とする空間計算量(物理リソース)
熱力学的深度は論理深度を基に定義されたものなので、論理深度の長所をいくつも持っている。食塩の結晶のように、簡単に組み立てられる単純で規則的な系では、たいていその熱力学的深度は小さい。また、ヘリウム気体のように、熱などの明らかにランダムなプロセスによって作られた完全にランダムな系でも、熱力学的深度はやはり小さい。しかし、生命体のように、何十億年もかけて有用なビットを大量につぎ込まなければ組み立てられないような、系統立っていて入り組んだ系では、その熱力学的深度は大きくなるのだ。
-
- 結局宇宙の複雑性は
- 熱力学的深度:10^92ビット
- 論理深度:10^122回
- 結局宇宙の複雑性は
さらに有効な複雑性の尺度
- 有効複雑性
- 系を記述する情報量を規則性とランダム性にわけたうちの規則性の部分の情報量
残念ながらこの後の宇宙が複雑化する理由に関するくだりは
われわれがここまで進化してきたのは、われわれの分散情報処理が豊かで複雑だったからだ。
と簡単にまとめられており、8章の前半で用意した小道具に比べるとパッとしない。何を期待していたというわけでもないのだが、著者流の宇宙史観が展開されるのみに思える。しかし宇宙開闢から生命、有性生殖、脳、人類、言語、数、文章、印刷、コンピュータに至るまでの情報革命を全て同じレールに載せて議論しようという姿勢がなかなか新鮮だったので評価++。