"血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。"

「だから」の用法

「何食べたい?」
「だから、かき氷」

これは道を歩いていて実際に耳にした父子の会話である。子供は5歳くらいで、容易に想像できるように既に少しいらついている。
こんな単純な文章で普通気になることはないが、この「だから」をちゃんと考えてみるとよくわからない。

例えば学校教育などで日本語学習を始めた話者の立場であれば、「だから」はおそらく「AだからB」という因果関係を表す言葉として教わるものだろう。
それでは説明がつかないので改めてオンライン辞書などを見ると、単純に因果関係とは解釈できない例を挙げているものは少ないながらある。

〔助動詞「だ」に助詞「から」が付いたもの〕 それゆえ。そんなわけで。 「なに,壊した。-,注意したのに」 「 -言わないことじゃない」

大辞林 第三版 (三省堂)

もう少し説明らしいものを求めると

「だから」は、結果が、事前に容易に予想されたとおりになった場合には、後に続く事柄の原因となった前の事柄が述べられなくても、「ごらん、だからやめろと言ったじゃないか」のように用いることができる

類語例解辞典

因果関係の用法と無理やり紐づけるようにこの用法を言い直すと
「今起きていることは私には分かっていたが分からない人には分からない、だから私は言っておいたのだ(もっとも、言ったところで無駄だったが)」
のようなニュアンスになるだろう。

これでも冒頭の例はまだ説明が難しい。
子供はかき氷を食べたいと既に一度父親に伝えているだろう(まだ伝えていないのに「だから」という言葉を使うようならさすがに早めに直してあげた方が苦労しない気がする)。
しかし、父親がそれを忘れてしまうことを事前に予想していたかどうかまではわからない。
子供が敢えて「だから」を使った気持ちを仰々しく言えばこんなところだろう。

「あなたは1回言っただけでは忘れてしまうようだ。だから私は先ほども言ったことをもう一度言う。かき氷を食べたい」

念のため英語への機械翻訳を試したが案の定SoかThereforeである。
逐語訳ベースでは「だから」が単なる因果関係なのか、より豊かな文脈を持った用法で別の訳を施されるべきなのか判断できないのだろう。
言語学でも自然言語処理でもこのような例文を考えることはあるだろうし素人でもすぐにあれこれ思い至るが、文脈を含む発話について筋道立てて考えるのは、子供の単純な発話で辞書を使ったとしても一手間かかる。

補足

因果関係をずらしてみると、以下の解釈の方がすっきりするかもしれない。
「あなたは人の話を聞かない、だから私が言ったにもかかわらずこうなったのだ」
しかしながら、ここから冒頭の用法へは展開しづらい。
だからあなたは忘れたのだ」
と突然言われても、という感じがする。

追記

とぅぎゃりました。
「だから」の用法 - Togetterまとめ